2001/04/25 キャラメルマン

 今日、電車に乗って、座席に座って本を読んでいたら(比較的すいていました)「ぷしゅ」という音がするので顔をあげると、正面の座席に座ったおじさんが缶ビールを開ける音でした。いや別にいいんですが、普通は通勤電車であんまりやらないかな、と思ったのでちょっとびっくりしました。といいつつ実はその人のことは今回の話には関係ありません。
 私はその後うとうとしていたのですが、私の隣に座った人が「この電車、○○に行くの?」と私に話かけていることに気づいて、目がさめました。ふと隣を見ると、混んでもいないのに私に体をぴったりつけるように座っているその男は、なんと言うか、人のことは言えませんが、ちょっと「怪しい」感じの人だったのです。年は40代か50代、やせていて、黒くて細いサングラスをかけていますが、ちょっとずり落ちそうな感じ。大きく足を組んで、ふんぞりかえったようにだらしなく座っています。そうして、私に顔をくっつけるようにして、話しかけているのですが、視線は微妙にそらしている模様。酒の匂いはしなかったので、酔ってはいないようです。私は、もちろん、人を見かけで判断するようなことはいたしませんので、動揺もせず、落ち着いて、○○駅にはとまるということ、△△に行きたいというので、△△には、○○駅で××線に乗り換えればよいのではないか、とあやふやな知識でお教えしました。私も○○駅で降りなくてはならず、また○○駅まではあと二駅だったので、私は、よかった……じゃない、残念だなあ(もっとおじさんとお話したいのに)と思いながら、本をかばんにしまいました。ところが、意外と駅間が長くて、なかなか着かない。おじさんは私にいろいろ話しかけて来ます。

「荷物、電車においてきちゃってさあ。とりに行くんだけどさ。もう電車出ちゃってんだろな。」
「ああ、そうなんですか……。」
「……おれ切符持ってなくてさ、ピンポーンピンポーンてなったんだけどさ、入っちまえばこっちのもんだよ。……出るときもねえからさ、にいちゃん、切符もってんだろ、にいちゃん先に出てくれよ。おれにいちやんの後にくっついてくからさ。ピンポンピンポンてなってもしったこっちゃないからさ。な、たのむぜ、にいちゃん。」
「……は、はあ……。」
「…………。」
「…………。」
「(小声で)あー……はらへった……めし食ってねえんだよね……」

 これにはちょっと吹き出しそうになりましたが、一方で、正直いってちょっとまいったなあ、と思っていました。と思っていたら、悪いことに、じゃなくて幸い、電車は駅のはるか手前で突然急停車したのです。どうしたのかな、と思っていたら、車内放送で「線路内に人が立ち入っているので、緊急列車停止装置が作動しました。安全確認の後発車いたしますので、しばらくお待ちください」とのこと。私が乗っている車両は一番前の車両だったので、窓のそとを見てみると、線路脇の土手にたしかに人がいるのです。よくみると、そのおじさんは、柵を乗り越えて線路に入ってきたようなのですが、チェーンソーのような草刈り機を持ち、長い延長コードをひきずって、にやにやしながら歩いています。線路脇の草刈りでもしようとしていたのでしょうか。よくわかりません。どうやら運転手に怒られて、罰が悪そうに退散するもようですが、発車するまではまだ時間がかかりそうです。私の隣の例のおじさんは、いらいらしてきました。

「なんだよ。どしたのよ。」
「何か、人が入ってたみたいですね。」
「あいつかよ。なんだよ。ったく。……あー、おれ、吸っちゃうよ。ったく、誰が決めたんだよ。法律があるかってんだよ。日本国憲法に書いてあるかってんだよ。」

 とかいいながら、あらあらおじさん、ポケットからたばこを出して吸い始めました。ははは(ちょっとひきつった笑い)……。そうこうしている内に、5分ぐらいで、「侵入者が立ち去ったので」電車は動き始めました。おじさんはなおも話しかけてきます。

「あんた、どっから来たんだい」
「え?□□から……」
「あんた学生さんだろ。就職なくて大変なんだろう」
「いや、学生じゃないです」
「どこの大学出てんだい」
「……東京の大学です」
「東京のどこだい」
「都立大学です」
「へー、むずかしい大学じゃねえか。えらいもんだ。……おれはね、東大出てんだよ」
「あ、そ、そうなんですか」

 そしてその後、彼はさる超大手の銀行の名前を出し、そこに勤めていた、と言います。その銀行の合併の過程などを妙に詳しく説明しはじめました。そして、こういうのです。

「にいちゃん、もう銀行はだめだぜ。悪いことはいわない。預金するなら郵便局にしな。あそこはつぶれねえからな。コイズミが民営化とかなんとか言ってるが、そんなものはできっこねえんだから。」
「でも、コイズミは首相になっちゃうみたいじゃないですか。」
「そんなことはねえ。そんなことはわかったもんじゃないね。」
「いや、でもテレビで見てたら、もうほぼ確定みたいですよ。」
「なんだい、あんたテレビで言ってること信用するのかい。あんなもの信用できるわけないじゃねえか。考えてもみな。天気予報だって当たんないんだぜ。な?そうだろ?」

 ちょっとうますぎるオチですが、実話です。
 そうこうするうちに○○駅に着いたのですが、おじさんは、もっと先まで行って乗り換えることにしたそうで、「じゃ」と行って別れました。ふと見ると、おじさんはなぜか小さな花束を持っていて、お尻のうしろに置いているのでした。電車を降りてから気がついたのですが、私の後にくっついてピンポンピンポンぶっちぎり作戦はできなくなったわけで、切符ももっていないのにどうするんだろう。
 というわけで、私は、今後テレビや新聞でいかなる報道がなされても、コイズミが総理大臣になったというニュースを信じないことにします。だって、どうして信じられるというんですか。直接見たわけでもないのに。天気予報すら当たらないというのに。今後、「コイズミ総理大臣」がテレビに映ったって、そんなもの偽物に決まってます。キャラメルマン1号に決まってます。だまされてはいけません。東大を出て、三○銀行に勤めていたおじさんが言うのですから、確実です。え?そんなのウソに決まってるって?いやいやむしろ、なぜテレビを信じておじさんの言うことを信じないのです?