2000/06/14 いいなり連鎖

 これは全国的にやっているわけではないと思うので見たことがない方も多いかもしれませんが、某ドラッグストア、マ○モトキヨシのCMについて考えてみました。正確なせりふではありませんが、再現するとこうなります(かっこ内は少女の独白)。

(1)
少年:「悪いね、いつも宿題やってもらっちゃって」
少女:「ううん」
少女の独白:(ワタシはいつもカレのいいなり)
(2)
ママ:「○○君、ママの靴磨いてくれた?」
少年:「あ、はいママ」
少女の独白:(カレはいつもママのいいなり)
(3)
少女:(ドラッグストア店内をスキップしながら)「でも、マ○モトキヨシはワタシのいいなり!」
(4)
ママ:(飼い犬に頬ずりしながら)「ぽちー!」
少女の独白:「ママはポチのいいなり」

 ママはどっちのママなのか、とかちょっと疑問もあるのですが、以上は、明らかに、(1)(2)(3)(4)でいわゆる「起・承・転・結」を構成していると思われます。ここで、「いいなり」の相関関係、というかヒエラルキー(これを「いいなり連鎖」と呼びましょう)を図にしてみるとこうなります(矢印は「いいなり関係」を示し、<― の左が右のいいなり)。

マ○モトキヨシ <― ワタシ <― カレ <― ママ <― ポチ

 つまり、このCMは、5つの項と4つの「いいなり関係」が登場し、この4つの「いいなり関係」のそれぞれに起承転結が対応している、ということになります。つまり、こうです。

         転      起     承     結
マ○モトキヨシ <― ワタシ <― カレ <― ママ <― ポチ

 これを更に分析すると、まず、「起・承」において、いいなり連鎖の中心に位置する3つの項が提示されています。これは、最低3つではないと具合が悪い。というのも、項が2つだと、それは単に「関係」を示すだけになってしまって、このいいなり関係が、食物連鎖のような「連鎖」であることが示されないわけです。「連鎖」とは、「関係の関係」であると言えましょうか。
 さて、こうやって連鎖が提示され、ワタシと同化した視聴者は、ワタシの上方に無限に続くかのように思われるいいなり連鎖を暗示されるのです。
 そうしておいて、「転」において、視聴者は、突然下方に目を転じさせられ、「実はワタシの下にもあるんです」ということが示されます。これが、最初の「オチ」を構成しているとも言えます。
 しかし、「転」において下方に目を転じさせられた視聴者は、「結」において、今度は逆に連鎖の底辺から一気に頂点へと目を転じさせられます。「実は一番偉いのはポチだ」というわけです。これが、第二の「オチ」です。その意味では、これはいわゆる二段オチであるとも言えます。二段オチの場合、第二のオチは第一のオチよりさらに落ちていなくてはならないわけですが、この場合、第一のオチはママからマ○モトキヨシまで下方に3段階飛んでいるのですが、第二のオチはそれを越えて、マ○モトキヨシからポチまで上方に4段階飛んでいるわけです。
 というわけで、このCMの項は、まさにこの数(5つ)より多くても少なくてもだめで、かつ、この順番に提示されなければならないのです。その意味では、よくできたCMであると言えます