1997.10.4. な、何なんだぁ?

 夕方近所のスーパーに買い物に行った。すると、店の前の歩道に、制服を着た警備員(警察官?)が二人立っている。何気なく自転車でそのわきを通り過ぎようとしたのだが、二人の警備員の間に、男がいることに気がついた。ところが、よく見ると、20代ぐらいの白いトレーナーを着たその男は、車道の方を向いて靴も履かずに正座し、両手を前につき、じっと虚空を凝視しているのだった。小雨が降っているというのに。「な、なんだあ?」と思ったが、別に周りに人だかりができているわけでもない。男はただ座っているだけで動きはなく、警備員たちも、当惑したような表情で腕を組んで見守っているだけなのだった。私は少し離れたところに自転車を止めて店の中に入っていった。

 買い物を終え、再び自転車にのったのだが、気になったので、つい、さっきの男がどうなったのか見に行ってしまった。すると、男はもういなかった。そのかわり、歩道が、男が座っていたところだけ、そろえた脚の形にきれいな長方形となって、白く濡れずに残っていた。「どこ行ったのかな」とあたりを見回すと、少し離れたところから、さっきの男が、二人の警備員にわきをはさまれて、再びこちらの方に歩いてくるのが見えた。私は、何となくこれ以上様子を見るのも気が引けたので、そのまま自転車を走らせて家に向かった。

 マンションの前まで来て、自転車を置いて、郵便物をとってから階段を上がろうとしたら、ポストの前に、青い作業服を着たやせた中年の男がいる。最初はここの住人なのかと思ったのだが、彼が何をやっているのかがわかって驚愕した。何と彼は、都推奨の大きなゴミ袋のなかに、各ポストの中に入っているものを次々と放り込んでいるのだ!!そして今まさに、私のポストの中身がそのゴミ袋の中に無造作につっこまれようとしている!私はあわてて彼にかけより、「ちょ、ちょ、ちょっと!何してんですか!!」と叫んだ。捨てられようとしていた私宛の郵便物は、キャンペーンで送られてきたポストペットのCD−ROMだった(危ない)!このとき、私は、「最近郵便受けの中身が盗まれる被害が出ているので住人は注意してください」という貼り紙が少し前にマンションの入り口に貼ってあったことを思い出した。

 私は自分の郵便物を取り返し、再び言った。「何やってんですか!」男はそれほどあわてる様子もなく、こう言った「・・・いやあ・・・こういう・・・紙ばっかりだから〜・・・」見ると、確かに、ゴミ袋に放り込まれているのは、ほとんどが、ピンクビデオや宅配サービスなどの広告のよう、ではあった。しかし・・・「紙って・・・大事な紙もあるかもしれないじゃないですか!」「・・・あぁ、すいませン・・・」「これ、犯罪ですよ・・・警察に言いますよ・・・」あー、なんか、かさにかかったものの言い方をしている・・・何かいやだな・・・とこんな時に関係ないことを考えながら彼の眼を見ると、なんというか・・・ ちょっと、眼が「すわっている」ような感じがした。犯罪というよりも、病的な行動なのかも、しれない。そんなやりとりがつづいたのだが、結局男は、「すいませン・・・」などとつぶやきながら、そのゴミ袋を引きずるようにして、どこへともなく去っていったのである。私はなぜか呆然としてしばらく立ちつくしていたのだが、考えてみると、自分の郵便物はとりもどしたからいいが、あの中には、別の部屋の住人の大事な郵便物が含まれていたかもしれないのである。